お台場にある『チームラボボーダレス』を始め、いまや世界各地でアート空間を手がけるチームラボ。

アート・サイエンス・テクノロジー・クリエイティビティの境界を超えて活動している同社は、デザイナーやエンジニアといったWebクリエイターのみならず、数学者や建築家など多種多様な専門家が集まっている “ウルトラテクノロジスト集団” である。

しかし、意外にもチームラボの仕事の大半は「受託制作」。さらに現在、600人規模の会社へと成長したにも関わらず、売上目標を持たず、追いかけるべき数字もなく、事業計画もないという、一般的なビジネスの常識からはかけ離れた経営を行っている。

なぜ、そんなことが現実的に可能なのだろうか。チームラボ創業メンバーであり、取締役を務める堺大輔氏にお話を伺った。

600人規模なのに「営業なし、売上目標なし、数字追わない」そんな会社って、どんな会社ですか?

―― チームラボは「売上目標がない」「統一された数字目標はない」というのは本当なのでしょうか?

本当です。何か会社として決められた数字を追う、ということはチームラボにはありません。

唯一、数字目標があるとしたら採用人数。というのも、制作というのはプロジェクトの終わりがハッキリしているから進捗管理がしやすいのですが、採用だけは日々の進捗管理が難しいんです。採用というのは会社が成長し続ける限り、ずっと続きますので。

もちろん採用人数の目標を達成するために、レベルを落としてでも採用するということはありませんが、数字目標は採用活動をドライブする要因になります。

しかし、制作においては売上や数字でドライブさせるのは良くないなと思っていて。それよりもアウトプットのクオリティを重視しよう、という考え方を持っています。アウトプットのクオリティが高くて、お客さんが喜んでくれたら、継続して案件を頂けて、お問合せも入ってきます。考え方はすごくシンプルで、そういう考えだけで今までやってきました。

各プロジェクトの管理シートはもちろんあります。いくら売上があって、リソースがどれくらい使われているかというのは管理していますが、それは目標ではなく指標です。
―― 600人規模で売上目標がないというのは、経営の観点から考えると恐ろしくないですか?

創業時から営業がいないので、僕らは頂いた案件でバリューを出さないと生き残れないと真剣に思っています。クライアントに喜んでいただけないと継続的にお金をいただけませんし、継続的にお金をいただくためには、クライアントの先にいるエンドユーザーが喜ぶものをアウトプットしないといけない。

そのため愚直にアウトプットのクオリティを高めることが自分たちの価値だと思っており、一番重要だと考えています。そういった考えでずっと続けられてきていますし、成長し続けられていますので、売上目標がないからといって恐ろしいと感じたことはないです。

―― アウトプットのクオリティを優先しすぎて「赤字になってしまった」みたいなことはないですか?

アウトプットのクオリティを担保していきたいため、どうしてもリソースを当初より追加して赤字になってしまうことはごく稀にはあります。ただし、ほとんどの案件においては、他の会社と同様、機能単位の工数であったり、アサインするリソースなどからクオリティを担保できるお見積りを出していますので赤字になることはありません。

限られた期間の中でクオリティを高めていくことこそ、僕たちが目指すべき姿だと思っています。

「数字は危険」人は多次元なクオリティの軸よりも、わかりやすい一次元な売上目標を追いかけてしまう

―― バリューを出せば仕事がくる、という考えは理想的ではありつつも、現実的には難しいのでは?と思ってしまいます。

きっと、僕らが社会人経験なくチームラボを立ち上げた、というのも、1つ大きな要因だと思います。大学時代に現代表の猪子と出会って、 “ビジネス常識” といったものがないまま起業しているので、変な枠組みがなかったんです。

もし社会人経験を積んでから起業していたら、「普通こうだよね」といった常識を身につけてしまって、いまのようなことはできていなかったかもしれません。

また、学生時代に起業しているからこそ、助走期間を持てたというのも大きいのかなと思います。最初の1〜2年は売上もそんなになかったのですが、それでもなんとかやっていけました。

これが仮に30歳で仕事を辞めて起業するとなったら、助走期間なんてなかなか取れないですし、むしろしっかりと売上計画を立ててやらないとダメだったかもしれません。

―― 事業が成長してからも「数字で管理する」という方向にシフトしなかったのは何か理由がありますか?

数字はどうとでもなる、と思っていまして。たとえばプレゼンなどで「何%達成しました!」と言ったりしますが、いくらでもごまかせるなと。特に割合ばかり使う人は怪しい、とすら思ってます。

「ページビューが10倍になりました!」と言っていても、本当は100PVが1000PVになっただけかもしれない。そんなのは本質的ではないわけです。

もちろん、プロダクトを売るような会社とか、広告枠を売るような業態であれば売上目標を持って、数字を追いかけるのはいいと思います。

しかし、我々がやっているのはクライアントに応じてカスタマイズする、クライアントの課題解決のためのソリューションを提供する仕事ですから、数字は危険。

我々のビジネスで数字を追いかけてしまうと、クライアントにとってバリューのでないもの、結果が伴わないものをアウトプットしてしまっても、良しとしてしまうかもしれないからです。

しかも、売上目標は指標としてわかりやすい。「クオリティの高いもの」といってもクオリティの評価軸というのはたくさんあって、非常に曖昧ですが、売上目標は一次元で絶対的な評価軸ですから、追いかけやすいです。

多次元な指標よりも、一次元の指標の方がわかりやすいから、売上目標が掲げられていて、数字が足りていなかったら無理にでも補足しようとしますし、まわりのメンバーに対しても「あのチーム、最近売上少ないね」といったネガティブな雰囲気になりがちだなと。

そうなってしまったら、チームラボとしてのバリューが提供できなくなってしまうと考えています。
―― しかし、その曖昧な「クオリティ」という多次元な軸で、600人規模のメンバーをマネジメントするのは可能なのでしょうか?

「クオリティの軸」と言うとたしかに曖昧ですが、プロジェクト単位に落とし込んで考えるととてもシンプルです。闇雲に「良いものをつくろう!」というわけではなく、それぞれクライアントごとにプロジェクトのゴールが存在していますから、目指すものはおのずと見えてくるわけです。

そして仮に「ユーザー数を増やす」というゴールであれば、SNSでのシェアを狙うであったり、検索流入を増やすであったりといった中間目標も設定できます。

また、現場で話されるクオリティというのは抽象的な話ではなくて、常に具体的な話をしています。たとえばデザインであっても、「フォントのパターン使いすぎだよね」「レイアウトはこうすべきだよね」といった会話があって、言われた方も「たしかに」となる。

むしろ、数字を追いかけるあまり、自分の部署と関係ないからレビューしない、気づいていても指摘しない、といったことは絶対にあってはいけないと思いますし、それこそ数字って危険だなと思います。

評価軸が明確にあると、それに合わせて行動してしまう「まるでSEOと同じ。本質的じゃないことが起こる」

―― 売上目標といった数字がない場合、社員の評価はどのように行っているのでしょうか?

1ヶ月に1回、役員が集まってみんなの評価を決めています。評価シートはありません。

基本的な段階で言えば、「個人としてバリューを出せる」「プロジェクトにバリューを出せる」「チームにバリューを出せる」「会社全体にバリューを出せる」といったものがありますが、何によってバリューを出しているのかというのは人それぞれ違うので、チームリーダーなどからヒアリングはするものの、どうしても役員のバイアスがかかってしまうことは否めません。

本当はGoogleのページランクのようなアルゴリズムがあって、なんのバイアスもかからない評価ができればいいかもしれません。しかし、評価は完璧ではないと考えていて。

たとえるならSEOに似ていて。「こうやったら検索結果上位狙える!」というのがあり、それに合わせてコンテンツをつくるみたいなことがありますが、そうするとユーザーが検索して求めているものと違うものが上位表示される、といった本質的ではないことが起きることもあるかと思います。

人事評価も、それと一緒だなと。もし「こうしたら評価します」というのを明確に決めてしまったら、それに合わせてメンバーは行動してしまう。それが会社として望む成長と一致していればいいかもしれませんが、そうとも限らないと考えています。
もちろん、評価軸を明示した方がメンバーも自分が何をすべきかわかりやすいですし、行動もしやすいと思います。しかし、「リーダーシップ」や「主体性」というのは抽象的過ぎますし、目標設定なんて設定次第でいかようにもなる。

しかも世の中がどんどん変化していて、個々が学際的にアプローチする範囲を広げていかないと厳しい時代。これが30〜40年前であれば、ある一定の領域に絞った職人技を磨くということにバリューがあったかもしれませんが、いまは「デザイナーだから、これはやりません」とは言えないと思っています。

そのためチームラボの動き方を考えると、相当な工数をかけて評価軸をつくったところで、工数に見合うメリットを感じない、というのが本音です。

―― 明確な評価軸がないことによって、現場からの不満はありませんか?

あると思います。役員陣もこの評価方法が完璧だとは思っていませんし、不平等だと思っている人もいると思いますから、改善していかないといけないかもしれません。しかし究極なロジックがない限り、数値化された評価システムでは本質的な解決にはならないなと思っていて。

では、どちらが良いかと考えたら、いまの方が良いのではないかと考えている、というのが現状です。

クリエイターがつくっているのは数字じゃない。「個」の限界を知っている多種多様な専門家が集まっている組織

―― チームラボでは事業計画もつくらない、というのは本当ですか?

それも本当です。事業計画がないのは評価シートと同じで、ブレイクダウンさせてしまうと、そこを埋めるために行動してしまうからです。また、事業計画があると時代の変化にすぐに適応できないと考えています。

チームラボは完全にボトムアップの組織。それぞれの案件で、現場が「もっと良くするにはどうすればよいか?」というのを考え続けています。そして、具体的でないと何も進まないし、何も変わらないと思っています。

また、ずっと同じことを続けていてもクライアントにバリューを出せませんので、「こういうのをつくって提案していこう」「次はこういうシステムつくって提案しよう」「同じのをつくるのは非効率だからパッケージ化してていこう」といった具体的な会話を常にしています。

そもそも、クリエイターがつくっているのは数字ではありません。目の前のクライアントに対して、具体的なソリューションを生み出すのが仕事です。そのため、その時々でクライアントの課題というのは様々ですから、事業計画はつくれないなと考えています。

―― そういったボトムアップの組織を実現させるポイントはなんでしょうか?

チームラボは、明文化された理念があって、その理念に共感してメンバーが集まっているというわけではなく、「個」の限界を知っているからこそ、個々の専門性と強みを活かし合いながら、クオリティを高めて規模の大きいことをやろう、というマインドのメンバーが集っている、というのが大きいと思います。

また、チームラボには理念もありませんし、ミッションもありません。

そのため、同じ目標に向かって頑張るぞ!みたいな一体感は薄いかもしれませんが、いろいろな専門家がいて、いろいろなことを知っている人が集まっている。部署とかで分かれているわけでもありませんからすぐに相談できますし、多種多様な専門家が集まるチームの一員になれる、というのに魅力を感じて入ってきてくれている人が多いと感じています。

大事にしているのは、アウトプットのクオリティにしか注力しない、ということだけです。