「これからも、受託のWeb制作というジャンルで深く狭くを極めたい」

そう語るのは、大手含め様々な企業のコーポレートサイトを手がけ、AWWWARDS(Site Of The Day )、CSS Design Awards(Website Of The Day)などの受賞歴を誇るQUOITWORKS(クオートワークス)代表のムラマツヒデキ氏。

プライベートワークではデザインギャラリーサイト『MUUUUU.ORG(ムーオルグ)』の運営も行っている同氏であるが、最新のリリースは常に最高傑作だと宣言し、愚直にWeb制作に取り組むその背景には、ムラマツヒデキ氏が考えるクリエイターとしての考え方があった。

そこで今回、ムラマツヒデキ氏のこれまでのキャリアからクリエイターとしての生き方までを紐解いていく。

自分自身の市場価値を高めるために、いかにレアな存在にしていくかを考えてきた

―― ムラマツさんはデザイナーとして3社経験した後にフリーランスに転身、そして法人化してQUOITWORKSを設立されていますが、それはもともと描いていたキャリアプランだったのでしょうか?

明確なキャリアプランがあったというよりかは、その時々で「よりレアな経験が積めること」を選択し続けた結果、いまに至るというイメージです。というのも、仕事がデキる人、デキない人の違いって、レアな経験を積んでいるかどうかだと僕は考えているんですね。

たとえば普通の専門学校を卒業して、普通の会社に入って、普通に仕事しているだけでは市場価値が高いとは言えないなと。むしろ、「20代で起業して3社すでに潰してしまいました」みたいなレアな経験をしている人の方が市場価値が高いと思っています。

そのため、20代でフリーランスに転身している人は当時そこまで多くはいませんでしたから、普通に転職するよりかはレアな経験だと思い、独立を選びました。

ただ、いざフリーランスになってみると、1,000万円稼ぐフリーランスもいれば100万円しか稼げていないフリーランスもいて、ピンきりなんですよね。そしてフリーランスを名乗って仕事をしていると、下請け仕事的な「フリーランスに頼みたい案件」が多くなってしまう。

それも違うなと思い、じゃあ法人化しようと。では、いつ法人化しようかなと考えたとき、1年後に法人化するのだと、いま法人化した人と1年分の差がつけられてしまうのも嫌だなと思い、すぐに法人化しました。
quoitworks1_1自分のできることを広げるために転職してスキルアップをする方もいると思うのですが、僕はレアな経験を積もうと、いつも選択肢がある岐路に立ったときに、より経験値獲得に効率的で難易度が高い道を選び続けてしまったところがあり、いま振り返ると「なかなか深いところまできちゃったな」という感じです(笑)。

「アレをつくった人」になるべき。そのためにもクレジットが出ない仕事はやらない

―― ムラマツさんが運営されているデザインギャラリーサイト『MUUUUU.ORG(ムーオルグ)』は、なぜ始めようと思ったのでしょうか?

僕が尊敬しているデザイナーの田渕将吾さんという方が『S5-Style』というギャラリーサイトを運営しています。デザイナーとしてギャラリーサイトを運営するのはレアですよね。そんな田渕さんは僕よりも2歳年上なんですけど、初めてお話しさせていただいたときに田渕さんはS5-Styleをすでに4年間も運営されていたので、「やばい、2年も遅れをとっている。レアな人になるためには、これ以上遅れをとる前にすぐにやらないと!」と思い、始めました。

気づいたらMUUUUU.ORGも8〜9年目になり、アクセス数も月間50万PV以上に成長しました。また、掲載しているサイトデザインも何が良いかを説明できるものだけを載せているため、デザインについて体系的に説明できるようになりましたね。

一番大きかったのは、MUUUUU.ORGがあることで「あなたはどこの誰ですか?」という状況が減ったことです。同じ業界の飲み会だと、「アレをつくった人ね」と覚えてもらいやすくなりました。

クリエイターであれば、その人を評価するのは「何をつくってきたか」でしかないと思っていて。もともと有名な会社に勤めていれば、「元どこどこの〜」と自己紹介できますが、そうでない場合は自己紹介ができないんですよ。

また情報発信も大事だと思っていたので、フリーランスになりたての頃なんかはMUUUUU.ORGの他にもポートフォリオサイトをつくって、ブログもつくって、さらには実績づくりと割り切って格安で一式15万円とかで仕事を受けるといったこともしていました。

自分でギャラリーサイトを運営しているのに、他のギャラリーサイトに自分がデザインしたサイトを送ったりもしていましたね(笑)。

そういった考えから、僕はクレジットが出ない案件は今は基本的にはお断りしています。クレジットが出ることで実績として残せることはもちろん、微妙なサイトに仕上がってしまったとしても、それは自分の責任になるからです。良かろうが悪かろうがすべて自分の責任になるプレッシャーを自らかける。

それが物をつくる責務であり、ものづくりを生業としている人間が唯一自分を守る仕事のやり方だと考えています。1件しか見せられる実績がないのと、10件実績がある場合、後者の方が仕事を集めやすいのは当然ですよね。無茶して頑張り続けて疲れないかと思われがちなのですが、これって実は今を頑張ればどんどん楽になってく仕組みなんですよ。

「最新リリースが常に最高傑作」恥ずかしくないから実績はすべて公開する

―― 案件に取り組む中で、大切にしている価値観、考え方は何かありますか?

ディレクター的な側面でクライアントに満足してもらえるものをつくることはもちろん、クリエイターとして恥ずかしくないものを出したい、という想いは強くあります。

そして、最新の案件って今まで培ってきた経験やノウハウが詰まっているべきだと思うんですね。それはつまり、最新のリリースは常に最高傑作である、ということ。そうじゃないと、クライアントからしたら嫌ですよね。「今回はあまり上手くいきませんでした」なんて言うところに仕事を頼みたくないじゃないですか。

たとえばラーメン屋さんで、「今日のスープはうまくできませんでした。いつもはもっと美味しいんですけどね」とか嫌だし、好きなミュージシャンには新作を「最高傑作」と言ってほしいのと同じですよ。

むしろ、5年前とかの案件で未だに評価されるのも嫌だなと思うんですね。最近なにしてるんですか?と聞かれたら、いまはこういうのをやっていると自信をもって答えられないといけないなと。だからこそ、毎回「この案件を最高傑作にするぞ」と自分自身に言い聞かせて取り組んでいます。
quoitworks1_6―― 最新リリースを常に最高傑作とするのは、実際ものすごく大変ではないですか?

大変ですよね。特に最初のころなんかはお得意様みたいなクライアントもいるわけではないですから、案件1つひとつをしくじるわけにはいきませんし、クライアントの期待に応えられるアウトプットを出さなきゃ、と常に精神的に擦り切れていました。でも、いまはそういう緊張感が面白いなと思えるようになりましたね。

また、根性論みたいになってしまいますが、諦めなければ絶対にいいものはつくれると思うんですね。「クライアントが無理難題を言ってきたから」「予算がなかったから」など、言い訳しようと思えばいくらでも言い訳なんてできます。でも、言い訳してたら、いつまでもいいものはつくれません

たとえばクライアントからの要望に対して、「デザイナーとしてはこう思うんですが、どうですか?」と一度お伺いを立てるか立てないかでも、方向性は変わってきます。それを最後までやり続けられるか、最後まで粘れるかどうかが大事なんですよね。

自分が責任を持って動いている案件だからこそ、言い訳したくないじゃないですか。もちろん、いろいろなお客様がいますから、すべてが思い通りにはいかないですよ。

しかし、最終的にいまいちだなと思っている案件であっても、全力を出したならそれが真の実力。そういった結果に対しても最高傑作だと言えるように努力することが大切だなと思っています。

「僕は受託Web制作を真面目にやりたい」クライアントの課題を解決し、かつ美しさを伴うものをつくる

―― ムラマツさんの、Web制作に対する強いモチベーションはどこから出てくるのでしょうか?

ここまで続けてこれているのは、単純にデザインが好きだから、です。お金を稼ぐためであれば、他のビジネスのほうがきっとラクなのかもしれません。でも、自分自身の人生を振り返ってみると、褒めてもらえることが多いのがWebの仕事だったんですよね。

しかも、音楽を聴きながらできる仕事って、なかなかないじゃないですか(笑)。

また、Web制作ってクライアントの企業の一員になったくらいの気持ちで制作できるのが、個人的には楽しいなと思うんですね。いろいろヒアリングをしていく中で、お客さんと良い関係値をつくって、こうしたほうがいいのでは?と考えるのが好きで……というのは建前でして、僕ってWeb制作しかできないんです。

「やることを極めること」と「極めることを決めること」は同じくらい難しいことだと思っていて、その中で僕はWeb制作をやると決めたので、ただそれを誰よりも上手くやりたい、誰にも、自分にもただ負けたくないだけなんです。

「自分よりあの人の方がうまいなぁ」「あの人が作ったサイトが凄い」「自分はあともう少しだけできる」なんてことをいまだに思い続けてます。
quoitworks1_7―― 今後、QUOITWORKSとして挑戦したいことは何かありますか?

最近って、受託のWebサイト制作というのが流行っていないと思うんですね。UXとかブランディングとか、アプリとか受託のWeb制作というものから逃げるように流行っているなと感じているのですが、そんな中で僕は受託のWebサイト制作というのを王道でありながら深くやっていきたいと考えています。

中途半端なレベルでバズワードに乗っかって広くなんでもやるよりも、Webサイト制作を “ちゃんと” やっているという方が、QUOITWORKSとしての特異性に繋がる気がするんですね。

では、ちゃんとしたWebサイト制作って何かと言うと、僕は「お客様の課題をしっかり解決すること」、かつ「デザイナー視点でも納得いくクリエイティブを出すこと」の両立だと考えています。

エモくて凄いサイト、課題解決の装置として振り切っているサイトとどっちかになりがちですが、客観的に見て納得できる理由があり、その上で美しさを伴っているWebサイトが良いWebサイトだと考えているため、そういったWebサイト制作をこれからも王道でありながら深く、ちゃんとやっていきたいですね。

<後編に続く>