大手代理店との仕事をせず、ナショナルクライアントとの直案件のみに絞っていく制作プロダクションも多い中、デジタルサイネージ、アプリ開発、Web制作などを行う株式会社マスクマンは、大手代理店との案件率がほぼ100%であるという。

「調整が大変」「自由な仕事ができない」といったネガティブな印象もある代理店案件であるが、マスクマン代表取締役であり、クリエイティブディレクターを務めるナカニシケイゴ氏からは、とてもポジティブな意見が繰り広げられる。

なぜマスクマンは代理店案件がメインなのか、代理店案件をポジティブに捉えられる理由は一体なんなのだろうか、ナカニシケイゴ氏にお話を伺った。

「代理店が間に入っているという感覚はない」チームとして組めない案件は断ればいいだけ

―― なぜマスクマンでは代理店案件がメインなのか、その理由を教えてください。

たまたまお問い合わせをいただいているのが代理店の案件、というだけです。また、代理店案件を前向きに楽しんでいるので、 特に直クライアントの案件を取りに行こうとしたこともないですね。

逆に代理店案件もわざわざ取りに行っているというわけでもなく、前職からお付き合いのある方が広告代理店にいらしたりして、結果的に代理店からお仕事をいただくのが多い、というだけなんですよ。

代理店案件だろうが直案件だろうが、結局は仕事って人との繋がりだと思っていて。プライベートで飲みに行くような友人的な感じではないですけど、仕事上で仲良くさせていただいている方々で、「この人のオーダーなら断らずにやりたい!」と思える方っているじゃないですか。

そして、「この人と仕事したい」「この人と仕事したら気持ちいい」という関係の方が、僕らの場合はたまたま広告代理店の方々が多い、ということに尽きるかなと。

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―― 直クライアント案件と代理店案件で、プロジェクトのやりやすさに違いは感じないですか?

直案件でも代理店案件でも、そう大きくは変わらないと思っていて。というのも、僕たちは下請けという感じで仕事を行うのではなく、代理店と “一緒のチーム” だと思って仕事をしているんですね。「お得意様には逆らえない!」みたいな意識で仕事をすることはないですし、一緒のチームとして進行できる代理店としか仕事をしていないんですよ。

なので、一緒のチームとしてやっている以上、「代理店が間に入っている」という感覚はありませんし、直案件の場合でもクライアントと一緒につくる、という意識でやっているので、プロジェクトのやりやすさに違いは感じません。

逆に、代理店案件だから、直案件だからと考えること自体が、僕は不誠実だと思っていて。プロとしてオーダーされているので、プロとして仕事をする。ただそれだけかなと思いますね。

そして、お付き合いのある代理店だけではなくて、初めてお仕事をご一緒する代理店であっても、一緒のチームとして取り組む姿勢は変わりませんし、それを良しとしてくださる企業としか仕事をしていないんです。
そのため、もし代理店から単に下請けとしてのオーダーが来た場合は、オーダーからお断りしています。

―― これまで実際に案件を断ったケースもありますか?

滅多にないですが、あります。初めてのお客様から案件の相談があって、まずは打ち合わせをしましょうと。それで約束の日にオフィスへ訪問したら、ダブルブッキングされていたんですね。「どうしよう、でも初めてのお客様だし」と思いつつ、結局30分くらい待たされて。

それでいざ打ち合わせが始まって、こういうことやりたい、ああいうことやりたいとヒアリングをさせていただいたのですが、フィジビリティも確認しないといけないので、「一回戻って確認します」と答えたら、「やるの? やらないの? どっちなの?」と。

あっ、これは仕事のやり方が合わないな、と。

なので、「じゃあ、やりません」と断りました。「オレの仕事断るの?」とかって言われましたし、こいつ使えないなと思われているかもしれませんが、合う、合わないってあるじゃないですか。オーダーいただくお客様と自分たちの相性が合わないと、アウトプットも満足いくものが生まれないと考えているので、そういうときは断りますね。

仕事に文句を言うのではなく、その仕事を「断れない理由」を大事にすること

―― 来た案件を断る、というのは企業としては勇気がいることですよね。

僕は「こんな仕事やってられるかよ」なんて思うくらいだったら、その仕事は受けちゃダメだと思います。仕事を受けた以上、全力で取り組むべきであって、全力で取り組めないのであれば、最初から受けないほうがいい。

だから、下請け的な仕事を振ってくる代理店に文句を言う人がいますけど、その案件を受ける、受けないは自由なのに、仕事を受けておいて文句を言うのは違うでしょと思うんですね。

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案件を受けると判断したのであれば、売上なり何なりメリットを感じて受けているわけですから、受けた以上は何がなんでもやらないと。

とは言え、断れない仕事ももちろんありますよ。だけども、それであれば「断れない理由」を大事にした方がいい。断れない理由を自分の中で噛み砕いて理解して、誇りを持って仕事をすべきだと思います。

苦しい思いをしてまで仕事しなくていいじゃないですか、世の中仕事なんてたくさんありますから。もちろん、精神的にツラいこともあるし、「早くこの案件終わらないかな」と思うこともありますけど、仕事を受けた以上はやり遂げる。というのが僕の考えですね。

―― 代理店案件は「自由な制作ができない」というイメージもあると思いますが、どうお考えですか?

代理店案件であっても、直案件であっても、自由な制作はしてはいけないと思います。たとえばですけど、自分が家を建てるとしたら、建築士の好きなものを建てられて、なんか論理的なこと言われてまくしたてられたところで、嫌じゃないですか(笑)。

オーダーを受けて仕事をする以上、たとえ直案件であろうが、自分たちがつくりたいものを自由につくるのではなく、お客様がつくりたいものをつくること。それでかつ自分たちがつくって満足できるものを目指すことが、仕事だなと。

「なんでこんなつまらないもの制作しちゃったんだろう」と思うようなものはつくりたくないですし、お客様にも自分たちに頼んでよかった、と思えるような仕事がしたいですからね。

「銀座線に乗ってるのに池上線の会話(笑)」自分の仕事が多くの人の話題になるのは、やっぱり嬉しい

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―― あえて代理店案件の面白さやメリットを挙げるならば、何がありますか?

やはり、いろいろなジャンルのお仕事ができるのが大きいです。たとえば有名アニメとのコラボであったり、タレントを起用したりといったことは代理店案件ならでは。いち制作会社だけではできないような仕事に携われるのは面白いですよね。

また、代理店案件ならではのネットワークができることも面白い。代理店案件でなければ、2、3の制作会社が集まって、一緒にプロジェクトを進めるってなかなかないので、そういった案件での繋がりから、今でも一緒に仕事をするパートナーが生まれたりするのは面白いですよ。

あと代理店案件の場合はクライアントとの間に営業の方が入ってくださったりして、クライアントに直接言うと角が立つことも、代理店の方と相談して進められますからね(笑)。直案件だったら、「なんて伝えよう、どうしよう」といったことにも気を配らないといけないので。

―― これまでで印象に残っている案件を教えてください。

どれも全力で取り組んでいて印象深いものばかりなのですが、最終的に一般の方の生の声が聞けて嬉しかったので言うと、東急池上線の「生活名所」プロジェクトという案件ですね。

maskman「生活名所」プロジェクト(マスクマンが制作を担当)

企画がそもそも良かったんです。東急池上線を盛り上げるためのプロジェクトとして、池上線沿いってランドマーク的なところはないけど、生活をする上で穏やかな場所はたくさんあって、地元の方からも愛されている名所がたくさんあるんですよ。それらを「生活名所」と名付けて紹介する企画でした。

池上線の無料開放DAYを行い、イベント自体も盛り上がって。そして後日、電車に乗っていたときに、隣りにいた乗客の方々が「池上線のあれさー」って話題にしていて。しかも、そのとき僕が乗っていたのが銀座線だったので、「銀座線で池上線の話題になるなんて(笑)」とすごく嬉しかったし、印象に残っています。
そうやって自分たちが関わった仕事で、多くの人に話題にしてもらえるのはやっぱり嬉しいですよね。

クラフトが優れているのは当たり前。その上で、いかに見た人が動くアウトプットができるかが重要

―― マスクマンではディレクター職の割合が大きいですが、それには何か理由があるのでしょうか?

最初、ディレクターは僕ひとりだけだったんですよ。だけど、ディレクターとして僕が1案件に集中したら出せる最高のパフォーマンスが、複数案件を担当するとやはり出せなくて。

しかも、ディレクションの部分にマスクマンの強みを感じて案件のご相談をいただくこともあるので、僕が会社の代表としてリーダーシップをとっている以上、「ディレクターがいる」というのがマスクマンのあるべき姿かなと。そのため、いまは12名中5名がディレクター職に就いています。

プログラマーの方がリーダーシップをとるのであればプログラミングの強い会社になるでしょうし、デザイナーの方であればデザイン力で勝負するように、クライアントとの窓口であったり、折衝含めてプロジェクトの進行までも行うのが、マスクマンの仕事なのだと考えています。

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―― 最後に、マスクマンとして今後やっていきたいことを教えてください。

僕たちが手がけたアウトプットによって、見た人、触れた人が「動く」案件をやっていきたいなと。
昔ってFlashでこんなこともできるんだー!と話題になっていた時代がありましたが、実際当時で言えばPS3ですでにすごい映像表現なんてあったわけですよ。だから、Flashうんぬんのすごさなんて、一般の方には伝わらないですし、業界だけで盛り上がっていたんですよね。

そうやって、昔は優れたクラフトは業界で話題になっていましたが、いまはクラフトが優れているのは当たり前。ブラウザで様々なことが表現できるわけです。いわば、ようやく健全な状態になったなと思っていて。

そこで、クラフトが優れているのはベースとしてありつつ、それを見た人が実際に店舗へ足を運ぶなりの行動をしてくれたり、もしくは笑ったり感動したりと心を動かされるような、そういった案件をやっていきたいなと思います。