優れたクリエイティブだけでなく、マーケティングをも得意とし、戦略構築から制作までのマネジメントまでも行うのは、株式会社ベイジ。マーケティングの知見は自社にも活かされており、年間400件以上のお問い合わせを獲得するほどの実力を持つ。

そんな株式会社ベイジは制作会社としては珍しく、世間では不評の声も多いプレミアムフライデーを実施。そして現在平日は21時完全退社、水曜日は19時以降の業務を基本禁じているが、さらに退社時間を早め残業時間を削減することにも積極的で、今後は21時退社を20時退社、19時退社と段階的に早めていく予定であるなど、理想的な労働環境の追及に積極的に向き合っている。

さらに業界では “あるある” な炎上案件もほぼないという。

なぜ、そういったことが実現可能なのか。ベイジ代表取締役である枌谷力氏にお話を伺った。

受託制作は、顧客との相性が悪ければ事業が成り立たないビジネスモデルである

―― 「代理店案件は受けない」「コンペは参加しない」などの顧客選び、すなわち受注コントロールを行っている理由を教えてください。

ベイジを立ち上げる前は制作会社で働いていたのですが、この受託制作のビジネスモデルって顧客に左右される仕事だなと感じたんですね。働き方を見直そうという動きは様々な企業で行われていると思うのですが、どんなに社長が「NO残業だ!」と言ったところで、お客さんが「明日中までにやれ」って言われたらやらないといけないじゃないですか。

そして、多くの会社は社内マネジメントとマーケティングを別で考えているのかなと。つまり、顧客獲得について考慮せずに社内マネジメントをやっているケースが多いように感じていて。

しかし我々のような受託ビジネスの場合は、受注コントロールをしないと社内マネジメントをどんなに頑張ったところで、意味がないんですよ。顧客との相性が悪ければ、すべて崩れてしまうビジネスモデルなんです。そのため、ベイジは受注コントロールを非常に大切にしています。

―― 受注コントロールは、ベイジ立ち上げ時から行っていたのでしょうか?

受注コントロールをしたいとは思っていましたが、やはり立ち上げ当初からいきなり相性のいいクライアントと直でお取り組みをするというのはなかなかなく、間に大手制作会社が入っている仕事が多くありました。最初の2〜3年は下請け案件が多かったですね。

我々の仕事に惚れ込んでオーダーしてきてくれているわけではないので、無茶振りをしてくるクライアントもいましたし、徹夜しなくてはいけないような案件もあって、「これはなんとかしないといけない」と感じていました。

そこでベイジではBtoBマーケティング&セールスにおけるリードマネジメントが重要視し、インバウンドでのお問い合わせを増やそうと、自社のコーポレートサイトのコンテンツ充実化やイベント登壇、メディアへの寄稿などを積極的に行ってきました。

その結果、現在では年間400件以上のお問い合わせをいただけるようになりまして、またBtoBマーケティング&セールスの手法の1つである「リード・クオリファイング」を行い、受注コントロールだけでなく、労働環境の改善にも取り組めるようになりました。

「9時以降にメールが来る会社とは仕事をしない」受注コントロールはリスクマネジメントそのもの

―― こういった案件は断る、という具体的な例は何かありますか?

いろいろ仕事をしてきて、私たちの仕事の進め方や文化が広告代理店さん経由の仕事とは合わないことが多いと分かったので、代理店さん経由の案件は基本お断りしています。もちろん代理店さんといっても実際には担当される方次第で、中にはすごく相性のいい担当者さんも存在するとは思っていますが、結局は会社と会社の付き合いになるし、担当者が変わってしまう可能性を考えると最初からお断りした方がよいと、確率論で考えています。

実際、マーケティングに力を入れている私たちにとっては顧客の選択肢は非常に多く、やりたい仕事だけに絞っても選びきれない状態でもあるので、あえて自分たちが不向きな広告代理店さん案件を手掛けてリスクを取る必要もないかな、という考えです。

そして単に「予算が合う」「納期に間に合う」ということだけでなく、自分たちの働き方や文化に合っている顧客なのか、というのはかなり慎重に見極めています。たとえば、夜9時以降にメールを送ってくる、土日に連絡をしてくる、という会社さんも内容次第とはいえ、基本的にはお断りします。

そんな時間に新規の制作会社を探して問い合わせしているような体質の会社と付き合うと、こっちが苦しむと思うからですね。売上至上主義でそういった仕事まで受けてしまうから労働環境が悪化してしまうのかなと。

自分たちの仕事のスタイル、健全な労働環境を維持するには、「価値観や文化で仕事を選ぶ」という考え方はもっと広まるべき、とも思っています。

そして最初のメールからいきなり「ご提案ください」と書かれている場合もお断りしますし、コンペの案件も参加しません。コンペに参加してしまうと、先の予定を抑えないといけないですよね。その間に他の案件の相談が入ってしまったら断らないといけなくなるため、リスクでしかないなと。

今思うと失礼だなと思うのですが、過去にコンペに参加したときも、途中で降りる可能性があると事前に伝え、実際にコンペ直前に辞退することもありました。こちらだけ一方的にリスクを負うのは対等な関係性じゃなくて、私たちが仕事を失うリスクがあるのなら、発注者も発注先を失うリスクを持つべし、という考え方でいます。

こういう対等な条件を受け入れてもらえないと、結局仕事をしてもうまく行かないと思うからです。

▼ベイジが依頼を辞退する基準の一例

―― 受ける案件を制限してしまうことは、ベイジにとっての可能性を制限してしまうことにならないでしょうか?

確率だけでいえば、そういう側面もあるかもしれません。確かに、もしかしたら付き合ってみたら本当はとても相性の良いクライアントかもしれませんし、コンペをやった結果、得られることがあるのかもしれません。

だけども、それはすべて確率の問題だなと。「もしかしたら」と考えてたら、なんだって可能性はあります。でも、マーケティングやセールスというのは、些細な可能性に目をやるよりも前に、まずリスクとリターンの大きな確率で考えるべきだと思うのです。

選択肢があるのに、わざわざリスクを取る必要はない。ベイジには請けきれないほどの依頼がすでにあるので、その中で “良い顧客” と出会う確率を高めたほうがよくて、わざわざ対等な関係性を損ねるコンペのようなリスクを取ってまで、未知の顧客と出会う確率に賭ける必要はないと考えています。

そして、営業って確率論で語られるべきだと思うんですね。根性論で語られるものではない。それなのに「毎日足しげく通って、頭を下げ続けたら認めてもらえて受注した」みたいな営業の武勇伝って、なんか美しく語られるじゃないですか。

でも、それってめちゃくちゃ効率が悪いですよね。受注するかどうかわからない1000万円の案件のために毎日通うよりも、300万円の案件を3〜4つ受注した方がいいわけですよ。

「制度が先ではない」退社時間のコントロール、プレミアムフライデーの実施――理想論で終わらないベイジのマネジメントモデル

―― 受注コントロールによって、どういったことが変化されましたか?

まず、顧客関係にストレスがなくなりました。我々の仕事って、思った以上にデザインに時間がかかった、意外とバグが多くて修正対応に時間がかかったなど、スケジュール通りにいかないことも多いんですね。

そして途中でマイルストーンを変えられないクライアントの場合は、長時間残業や徹夜対応をやらざるえなくなるわけです。しかし、ベイジではマイルストーンを変えられるクライアントがほとんどで、最終的な納期も調整をさせていただけるクライアントが多く、労働環境が圧倒的に良くなりました。

たとえば、ベイジでは月45時間以上残業しない、平日は21時、水曜日は19時までには帰ろうというルールがありますし、これはさらに段階的には早めていこうと思っています。あと、プレミアムフライデーも愚直に行っています。

また労働環境が安定しているため、メンバーそれぞれが学びの時間を確保できているんですね。そのため、自然発生的に勉強会が生まれているのも良いことだなと感じています。

―― 「何時以降は残業しない」といったルールは多くの会社でもありますが、それを実現できている企業はなかなかないですよね。

制度が先ではない、という考え方が大切かなと。もちろんビジネスモデルによっては制度が先にあった方が良い場合もありますが、我々のビジネスモデルは属人的で、メンバーのケイパビリティが会社のケイパビリティだったりします。

その場合、メンバーに合わない制度であれば、その制度が活きてこないんですね。そこで我々は価値観が土台としてあり、その上に採用、顧客獲得があり、さらにその上に制度、ツールが来るというマネジメントモデルで組織設計を行っております。

価値観が一番下の土台としてあるのは、価値観が何よりも重要だと考えているからです。自分自身の会社員時代の経験から、価値観の合った組織にしないと居心地が悪いし、人は辞めるし、事業も安定しないと思っていて。

そのため、価値観の主要コンテンツである行動指針はメンバーが3人しかいないときから作っていましたし、価値観を浸透させるための日報も、他の時間を割いてでも書くようにしています。

また、価値観の合う人を採用するというのと同じレイヤーで、価値観の合う顧客と仕事をするというのを大事にしています。そして価値観の合うメンバー、価値観の合う顧客がいて、その人たちをより幸せにするためのものが制度としてあるので、現実離れした制度は生まれませんし、やっぱり合わないなと思った制度はどんどん変えていっています。

炎上案件は年に1度あるかないか。約140のタスクに分解したワークフローが安定的な「良いアウトプット」を生み出す


―― 制作会社では炎上案件というのは “あるある” であったりすると思うのですが、ベイジではいかがでしょうか?

炎上の定義がよく分かりませんが、確かに年に1案件くらいは、ミスを多発させたり、コミュニケーションやプロジェクトの進め方を失敗してしまって、お客様にお叱りを受ける、みたいなことは正直あります。

ただ、世間一般で言われているような案件が止まるような炎上を経験したことはちょっと思いつかないですし、上記のようなトラブルもかなり少ない会社ではないかと自分では思っています。それは受注コントロールを行っているからというのもありますし、過去に失敗をしたら、それを繰り返さない「成長できる仕組み」があることも大きいと思います。

ベイジではプロジェクトが終わったら、必ず1週間以内にクロージングミーティングを行っているんですね。そこで出てきた反省点、問題点は必ず期限を決めてタスク化し、ワークフローに反映させていきます。これは、そもそもワークフローを細かく約140のタスクに分解しているからできることでもあります。

それぞれのタスクが完了しないと、仕事が進まないという仕組みになっています。どこかが未実行のままプロジェクトが進もうとしていると「おかしいよね」と気づけるわけです。

▼実際のタスク分解されたワークフローイメージ

そのため、失敗したら失敗した分だけワークフローが整理されていきます。それは業務管理だけでなく、労働環境や人事評価などの制度を決めるときも同じで、何か失敗や課題があれば、すぐに制度に反映していきます。我々がブログで偉そうに何かを発信しているときは、その裏に失敗があるんです(笑)。

―― 細かくワークフローに落とし込んでも、実際にその通りに実行するのは大変ではないですか?

確かに「顧客との信頼関係が築けていなかったら厳しい」という根本的な問題はありますが、やるべきことが可視化されることで、大変さよりもラクさの方が大きいと感じています。ワークフロー通りにやって行けば、とりあえず大きなトラブルは起こらないわけですから(笑)。

こういった細かくタスク化されたワークフローなしに、「次はがんばろう」「次は気をつけよう」などと言っても何も変わりませんからね。課題解決は、しっかりと言語化してタスク化させることが大事だなと。

また、メンバーにはお金の責任を負わせない、というのも大きいかもしれません。納期がズレたらその分、売上に影響がでるわけですが、それは経営側で考えればいい話。それよりもメンバーには質の良いアウトプットにこだわってもらう方が重要だと考えています。

そして、良い顧客と良い仕事をして、良い評価をいただく。その結果、また新しい良い顧客と出会えるのだなと思います。